2012年6月28日
「JASRACと独占禁止法の関係を読み解く-"無罪"審決を理解するための基礎知識」
弁護士 唐津真美(骨董通り法律事務所 for the Arts)
* 審決取消訴訟の高裁判決についてコラム末尾に追記しました
(2013.11.8/ 11.15)
■ "無罪"審決?
さる6月14日、公正取引委員会がこんな報道発表をしました。
「公正取引委員会は,被審人一般社団法人日本音楽著作権協会(以下「被審人」という。)(筆者注:これがJASRACの正式名称です。以下「JASRAC」と言います。)に対し,平成21(2009)年5月25日,審判手続を開始し,以後,審判官をして審判手続を行わせてきたところ,平成24(2012)年6月12日,JASRACに対し,独占禁止法第66条第3項の規定に基づき,平成21(2009)年2月27日付けの排除措置命令(平成21年(措)第2号)を取り消す旨の審決(筆者注:平成21年(判)第17号)を行った。」
・・・さて、一体何が起きたのでしょうか?一部報道機関は「JASRAC"無罪"」という表現を使っていましたが、裁判所でJASRACを被告人とする刑事裁判が行われたわけではありません。取り消された「排除措置命令」って何のこと?「審判手続」はどんな手続きなの?そもそも、「公正取引委員会」といえば、「カルテル」「談合」あたりを思い浮かべる人が多いと思います。音楽を管理しているJASRACが、なぜ公正取引委員会と関係してくるのでしょうか。
今回は、JASRACに対する審決を理解するための基礎知識として、独占禁止法の守備範囲や、JASRACの業務内容について、広く浅く書いてみたいと思います。 (審決自体は全部で80頁の大作なので、スペースの関係上、内容の詳細に踏み込むのはちょっと難しいです。そのあたりを期待している方、ごめんなさい。)
■ 独占禁止法の基礎知識
独占禁止法、略して「独禁法」。しかし、実は「独占禁止法」も正式名称ではありません。正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といいます(長いですね)。この正式名称に独占禁止法の本質が示されています。
独占禁止法の目的は、「公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすること」だとされています。ここでは、公正で自由な競争が確保されている市場では、各事業者が多くの消費者を顧客として獲得するために、魅力的で安価な商品やサービスを提供しようと競争するだろう、という考え方が前提となっています。その結果、消費者は豊富な商品やサービスの中から自分の欲しいものを選ぶことができるようになるので、市場における公正で自由な競争を確保することは消費者の利益になる、というのです。
1 私的独占の禁止 (下記で解説)
2 不当な取引制限の禁止
「独禁法違反」と聞いてすぐに思い浮かぶ、談合やカルテル(事業者又は事業者団体のメンバーが相互に連絡を取り合い、商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決めて競争を制限する行為)などがこれに該当します。
3 不公正な取引方法の禁止
4 企業結合(合併など)の規制
また、独占禁止法の特別法として,「下請法」があります。下請法の正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」といい、下請代金の支払を遅らせたり、後になって減額したりするような、下請事業者に対する不当な取扱いを規制しています。この下請法は、別のコラムでも触れているように、コンテンツ関係のビジネスにも適用される、意外と身近な法律です。
今回のコラムでは、以上の内容すべてについて触れることはできませんので、今回の審決で問題となった「私的独占」について解説します。
「私的独占」とは奇妙な言葉ですが、事業者が単独であるいは他の事業者と結合するなどして他の事業者の事業活動を「排除」したり、「支配」したりすることにより、市場における競争を実質的に制限することをいいます。
「排除」という行為もイメージが湧きにくいと思いますが、例えば,仲間内の事業者とだけ取引をする「排他的取引」や、仲間以外の事業者に商品を提供しない「供給拒絶」を行って、競争者の事業活動の継続を困難にさせたり、その市場での新規参入者の事業開始を困難にさせたりすることを意味しています。
事業者が他の事業者を「支配」するというのは、例えば、他の事業者の株式を持っているとか、役員を派遣しているといった力関係を利用したり、巨大企業と取引相手の中小企業というような市場における地位を利用したりして、他の企業の事業活動に制約を加えることを意味しています。
上記のような規制がある一方で、品質の優れた安い商品を供給する企業が、市場での競争によって結果的に市場を独占するようになった場合には、私的独占にはあたらず、独占禁止法上違法とはなりません。これらは正常な競争手段としての企業努力だと考えられるからです。
今回の一連の手続きで争点になったのは、JASRACが放送事業者との間で行っている使用料徴収方式の1つである包括徴収方式が、上記の「排除型私的独占」にあたるかどうかという問題でした。この点については、後で検討します。
■ 公正取引委員会の手続について
独占禁止法が、市場における公正で自由な競争を阻害するような様々な行為を規制しているという話をしてきました。このような独占禁止法の規制に違反する行為が、一般的に「独占禁止法違反」と言われる行為になります。独占禁止法違反を審査するのが公正取引委員会です。
公正取引委員会は、一般の人からの申告などによって独占禁止法違反事件の手がかり(「事件の端緒」)をつかむと、事件を調査し、審査を行います。審査により違反事実が認められると、行政処分が相当な場合であれば、事業者の意見を聞くなどの「事前手続」を経て、「排除措置命令」が出されます。排除措置命令とは、公正で自由な競争秩序を回復するために、その違反行為を排除する等の措置を採るよう命じることです。カルテルのような悪質な行為については、さらに「課徴金納付命令」が行われます。刑事処分が相当だと判断されれば,公正取引委員会から検事総長への告発が行われることになります。
「排除措置命令」では、例えば、価格カルテルの場合、すでに行われた価格引上げ等の決定の破棄とその内容を周知させること、再発防止のための対策を講じること(独禁法マニュアルの作成や研修の実施等)などを命じます。
また、排除措置命令等の法的措置を採ると判断できるほどの証拠がない場合でも、独禁法違反のおそれがある行為がある場合、事業者に対して「警告」や「注意」を行うこともあります。
さて、排除措置命令は最終的なものではありません。排除措置命令や課徴金納付命令などの行政処分に不服がある事業者は、公正取引委員会に対して、「審判」を請求することができます。この場合、対象となる行政処分の内容を争う審判手続が開始されます。審判手続きは裁判に似ており、独禁法違反の事実の立証や処分内容の当否に関する主張などが行われます。審判手続を経た後、違反事実の有無等に応じて審決が下されます。本件の場合、JASRACに対して排除措置命令が出たのが2009年2月27日。今回の審決が出たのが2012年6月12日ですから、審決までに3年以上を要したことになります。今回の審決は、排除措置命令が審決により覆されたということが、大きな話題になりました。報道によれば、審判の結果排除措置命令が全面的に覆されたのは、1994年以来とのことです(2012年6月12日読売新聞)。
以上、今回の審決に関する範囲で、独占禁止法や公正取引委員会の手続きについて概観してきました。次からいよいよ本件審判の中身に入っていきましょう。
■ JASRACによる「包括徴収方式」-なにが問題になったのか
ご存知の方も多いと思いますが、JASRACは、音楽著作権を有する著作権者等から音楽著作権の管理の委託を受け、音楽著作物の利用者に対して音楽著作物の利用を許諾し、その利用に伴って利用者が支払うべき使用料を徴収して、著作者等に分配するという事業を行っている法人です。このような事業を著作権等管理事業といい、著作権等管理事業法という法律に基づいて運営されています。
ここでJASRACの歴史にも少し触れておきたいと思います。今回の審判では、JASRACの「私的独占」が問題になりましたが、実はそう遠くない昔である2001年まで、JASRACは、国のお墨付きをもらった堂々たる「独占企業」でした。著作権等管理事業法の前身である「著作権に関する仲介業務に関する法律」(仲介業務法。1939年施行)によって、著作権管理の仲介業務は許可制となり、音楽著作権の仲介は、JASRACの前身である大日本音楽著作権協会が独占することになったからです。この状態は2000年まで続きました。つまり、2000年までは、音楽著作権の管理事業については、「公正で自由な競争」が想定できるような市場はそもそも国内に存在しなかったのです。
ところが、2000年に著作権等管理事業法が改正され、2001年施行されました。著作権管理団体の設立は従来の許可制から登録制に緩和され、この時にイーライセンス、ジャパン・ライツ・クリアランス等の株式会社が音楽著作権の管理事業に参入してきたのです。この段階で、音楽著作権管理事業の市場には複数のプレイヤーが存在することになったので、その市場における「公正で自由な競争」が阻害されていないか、問題となる土台ができました。
一般の人がJASRACの管理する楽曲を利用するための利用申し込みの手続きや使用料は、JASRACのホームページを見ると書いてあります。使用料のもっとも一般的な徴収方法は、1曲1回の曲別使用料に利用楽曲数を掛けた金額を徴収する「個別徴収」ですが、コンサートでの利用のように、入場料や会場のキャパに応じた使用料の計算方法がある場合もあります。
ところで、JASRACの管理する楽曲の数は膨大なので、日々大量の楽曲を使用するテレビやラジオといった放送事業者が1曲1回ごとの使用をベースに使用料を支払うのは大変です。そこで、これらの放送事業者はJASRACとの間で特別な取り決めをしていました。これが今回問題となった「包括利用許諾契約」です。この契約に基づいた使用料の徴収を、公正取引委員会は「包括徴収方式」と呼んでいます。「包括徴収」とは、上記の個別徴収方式に対して、楽曲の有無や回数にかかわらず定額又は定率によって算出される包括的な使用料を徴収する方法です。各放送事業者とJASRACが締結していた「包括利用許諾契約」は、放送事業収入に一定率を掛けた金額を徴収するというものでした。
では、この包括利用許諾契約の締結とそれに基づく包括徴収が、なぜ独占禁止法上問題となりうるのでしょうか。理論上、包括利用許諾契約を締結した放送事業者は、追加の料金の発生を回避するために、JASRAC以外の音楽著作権管理事業者の管理する楽曲を利用しなくなる可能性が考えられるからです。以下で、この点に関する排除措置命令と審決での判断内容を具体的に見てみましょう。
■ 排除措置命令が出された理由
排除措置命令が出されたときに認定された具体的な事実は、概要下記のようなものでした。
A エイベックス・グループがイーライセンスとの管理委託契約を締結した。
B 放送事業者は、JASRACとの間の包括利用許諾契約によりJASRACの管理楽曲であれば、定率の使用料以上の使用料を支払うことなく自由に利用できるのに対して、イーライセンスの管理楽曲を利用する場合には、イーライセンスに対して使用料を支払わなくてはならず、その放送事業者が負担する使用料の総額がその分だけ増加することになった。
C この結果、放送事業者はイーライセンスの管理楽曲の使用を回避するようになった。
D Cの状況を鑑みて、エイベックスはイーライセンスとの間の管理委託契約を解除した。
上記の事実を考慮して、公正取引委員会は、
「JASRACは、すべての放送事業者との間で放送等使用料の徴収方法を本件包括徴収とする内容の利用許諾に関する契約を締結し、これを実施することによって、他の管理事業者の事業活動を排除することにより、公共の利益に反して、我が国における放送事業に対する放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における競争を実質的に制限しているものであって、これは、独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し、独占禁止法第3条の規定に違反するものである。」
と結論付けたのです。その結果出された排除措置命令の主な内容は、JASRACが上記の包括徴収方式をやめること、そして代替の徴収方式についてあらかじめ公正取引委員会の承認を得ること、というものでした。
ここで問題とされた市場は、音楽著作権管理の市場よりもさらに小さい、「放送事業に対する放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野」という市場でした。その市場においては、JASRACが全放送事業者との間で包括利用許諾契約を締結し、実施していることによって、イーライセンスのような新規参入者の事業開始を困難にしている、と判断したのです。
上記のAからDの事実を前提とすると、排除措置命令の判断は合理性があるようにも思えます。しかし、すでに述べたように、審判でこの結論が覆されました。その理由はどこにあったのでしょうか。
■ "無罪"審決へ
今回の審決で争点とされたのは以下の点でした。
争点1 JASRACが、ほとんど全ての放送事業者との間で包括徴収を内容とする利用許諾契約を締結し、放送等使用料を徴収する行為(以下「本件行為」)は、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野においてイーライセンスなど他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するか。
争点2 本件行為は、自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するか。
争点3 本件行為は、一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであるか。
争点4 本件行為は、公共の利益に反するものであるか
争点5 本件排除措置命令は、競争制限状態の回復のために必要な措置であり、かつ、JASRACに実施可能であるか。
争点1で「他の権利事業者の事業活動を排除する効果」が認められたとしても、正常な競争手段だと認められれば、独占禁止法に違反するとはいえません(争点2)。正常な総経手段でなくても、一定の市場における競争を実質的に制限しなければ、独占禁止法に違反するとはいえません(争点3)。一定の市場における競争を実質的に制限しているとしても、それが公共の利益に反するものでなければ、やはり独占禁止法に違反するとは言えません(争点4)。すべての条件をクリアして、本件行為が独占禁止法違反に該当するとしても、問題となっている排除措置命令が競争制限状態の回復のために必要な措置であり、かつ、JASRACに実施可能でなければ、排除措置命令は取り消されるべきです(争点5)。
そこで順番としては、争点1から5の順で判断していくことになります。
争点1の判断のために、公正取引委員会は、排除措置命令の際に主張されていた事実AからDを再度検証しました。この際に、JASRACは、本件行為により影響を受けた(つまり放送事業者が放送での使用を回避した)とされる楽曲(JASRAC管理楽曲以外の楽曲)について、放送等での使用状況を詳細に主張・立証しています。そして審判の結果として、以下のように認定したのです。(以下は、公正取引委員会が報道発表した審決の概要に沿っています。)
(1)実際にイーライセンス管理楽曲の利用を回避したと明確に認められるのは、1社の放送事業者にすぎず、放送事業者が一般的にイーライセンス管理楽曲の利用を回避したと認めることはできない。
(2)放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用について慎重な態度をとったことは認められるものの、その主たる原因は、JASRACによる本件行為ではなく、イーライセンスが不十分な管理体制のままで放送等利用に係る管理事業に参入したため、放送事業者が困惑、混乱したことにあると認められる。
(3)エイベックス・グループがイーライセンスに対する管理委託契約を解約したのは、放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用を一般的に回避し、しかもその原因がJASRACによる本件行為にあるとの認識に基づくものであるが、現実には、放送事業者はイーライセンス管理楽曲の利用について慎重な態度をとったことが認められるにとどまり、その主たる原因も前記のイーライセンスによる準備不足の状態での参入等であったのであるから、JASRACによる本件行為にエイベックス・グループのイーライセンスへの管理委託契約を解約させる効果があったとまではいえない。
(4)イーライセンスが放送等利用に係る管理事業を営むことが困難な状態になっているとまでいえるかにつき疑問が残る上、イーライセンスが管理事業を営むことが困難な状態になっているとしても、それは、前記の(不正確な)認識に基づいて、著作権者がイーライセンスに音楽著作権の管理を委託しなかったためであるから、JASRACによる本件行為に、著作権者のイーライセンスへの管理委託を回避させるような効果があったとまではいえない。
そして、上記を総合考慮して、「イーライセンスが放送等利用に係る管理事業を開始するに当たり、JASRACの本件行為がイーライセンスの放送等利用に係る管理事業を困難にしたという主張について、これを認めるに足りる証拠はない」と結論付けたのです。また、イーライセンス以外の管理事業者が放送等利用に係る管理事業に新規に参入しない理由が本件行為にあると認めるに足りる証拠もないとも判断した上で、「本件行為が放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するとまで断ずることは、なお困難である」と結論付けました。
他方で、審決は、本件行為が、放送事業者がJASRAC以外の管理事業者の管理楽曲を利用することを抑制する効果を有し、競業者の新規参入について消極的な要因となることは認められ、JASRACが管理事業法の施行後も本件行為を継続したことにより、新規参入業者が現れなかったことが疑われる、とはしています。競業者の新規参入を阻害する効果が一定程度ある可能性は認めたと読めます。
このように争点1で結論が出てしまったため、争点2から5については審決では判断が示されませんでした。
■ JASRACは"無罪放免"されたのか
審決を読むと、公正取引委員会が、JASRACをまったくのシロと結論付けてはいないことがわかります。「本件行為が放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するとまで"断ずる"ことは、"なお困難"である」という書きぶりや、新規参入を困難にしている可能性を示唆しているところを見ると、今後、別の事実関係(たとえばJASRAC管理楽曲以外の楽曲利用に関する別のデータ)が立証されれば、本審決と異なる結論が出る可能性も否定できないのではないかと思います。
また、著作権等管理事業法が施行されてから10年以上が経過した現在においても、JASRACはが音楽著作権管理業の市場における巨人であり続ける現実はありますし、この状況が劇的に変わる見通しもないように思えます。
しかし他方で、「JASRACが市場で独占的な地位を占め続けているのは、JASRACが独占禁止法上問題のある事業活動を行っているからだ」と結論付けるのも早計だと思います。JASRACが最近までお墨付きをもらっていた「独占企業」だったことを考えれば、単に、市場が複数の音楽著作権管理団体を求めておらず、その結果、市場に任せても他団体が伸びなかったと解釈する余地もあるでしょう。
市場が開かれた以上、そこは公正で自由な競争が行われる場であるべきです。今回の審決を受け止めつつ、今後の著作権管理業の「市場」の動きに注目していきたいと思います。
以上
【追記 2013.11.8/ 11.15】
JASRACを"無罪"とした上記審決(以下「本件審決」といいます)について、イーライセンスはこれを不服として、東京高等裁判所に審決の取消しを求める訴訟(審決取消訴訟)を提起していました(独占禁止法の規定により、東京高等裁判所が第一審裁判所になります)。被告は公正取引委員会ですが、JASRACは「訴訟の結果により権利を害される第三者」としてこの訴訟に参加し(このような当事者を「参加人」といいます)、イーライセンスには訴訟を提起して判決を受ける資格(原告適格)がないことや、審決の事実認定に合理性があることを主張していました。しかし、2013年11月1日の判決で、東京高裁は、上記のJASRACの主張をいずれも採用せず、放送事業者がイーライセンスの管理楽曲の使用を差し控えるに至った経緯や、イーライセンスの管理事業参入までの準備状況を検討した上で、複数の放送事業者がイーライセンスの管理楽曲の利用を回避し、又は回避しようとした事実を認め、その理由について、JASRACの包括契約上、放送事業者がJASRACに対して支払う放送等使用料が放送等利用割合を反映しておらず、放送事業者がイーライセンスの管理楽曲を利用すると、イーライセンスに対する放送等使用料の支払いが放送事業者にとって追加負担となることが大きな要因であると認定しました。そして、JASRACの包括契約について「放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において、原告(イーライセンス)の事業活動の継続や新規参入を著しく困難にしたと認められ、本件行為は、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有する行為であると認められる」と認定し、本件審決の認定は実質的証拠に基づかないものであり、その判断にも誤りがあるとして、本件審決の取り消しを言い渡しました。公正取引委員会とJASRACは最高裁判所に上告しており、本件の結論が出るのはまだ先になりそうです。(なお、判決原文は公正取引員会のサイトから入手可能です。全部で100頁ありますので、プリントアウトする際は覚悟しておいてください。
㈱イーライセンスによる審決取消等請求事件 判決[PDF:3.94MB] )
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2022年10月19日 弁護士
福井健策(骨董通り法律事務所 for the Arts)
法的若しくは専門的なアドバイスを目的とするものではありません。
※文章内容には適宜訂正や追加がおこなわれることがあります。