2012年7月30日
「コンプガチャは、なぜ違法? ~景品表示法・景品規制の基礎知識」
弁護士 松島恵美(骨董通り法律事務所 for the Arts)
■ ソーシャルゲーム界に激震
今年連休中の5月5日、ソーシャルゲーム界に激震が走りました。ソーシャルゲームで人気を呼んでいた「コンプリートガチャ(コンプガチャ)」と呼ばれる手法について、「景品表示法に抵触する可能性がある」などと報道されたからです。
昨今のソーシャルゲームの人気拡大に伴い、ソーシャルゲームを運営する会社は収益を飛躍的に伸ばす一方、コンプガチャにハマって月数十万円の高額課金をされる若者が続出、消費者庁に多くの相談が寄せられるなど、一種の社会問題となっていました。
本稿では、コンプガチャがなぜ違法とされたのかについて、景品表示法における景品規制の基礎知識を交えながら解説したいと思います。
■ 景表法・景品規制の基礎知識
景品表示法の正式名称は、「不当景品類及び不当表示防止法」といい、1962年からある法律です。以前は、公正取引委員会が取り扱っていましたが、2009年からは新しくできた消費者庁に移管されました。
以下、景品表示法(以下「景表法」といいます)の基本的構造を見ていきましょう。
景表法は、一般消費者の利益を保護することを目的としています。具体的には、取引において、事業者側が「不当な景品」を提供したり、「不当な表示」をして消費者を誘引することで、商品知識が不足している一般消費者を誤解させ、射幸心を煽るなどして、消費者の自主的・合理的な選択ができなくなってしまうようなケースを防止しています(景表法1条参照)。
なお、独占禁止法も不当な顧客誘引を不公正な取引方法として禁止していますが、景表法は独占禁止法とは別のアプローチで、独占禁止法を補完するとされています。
<景表法の景品規制>
景表法が「不当」として禁止する景品類やその提供方法については、内閣総理大臣が告示によって指定する(景表法2条、3条、5条)とされ、これを受けて、消費者庁(以前は公正取引委員会)が、告示や運用基準を公表しています。
景品の定義については、「不当景品類及び不当表示法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」(告示)、「景品類等の指定の告示の運用基準」、「景品類の価額の算定基準」が、提供の方法の制限については、「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(告示)、「『懸賞による景品類の提供に関する事項の制限』の運用基準」(*これが、今回改正の対象となったものです)、「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」(告示)、「『一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限』の運用基準」、その他新聞業、雑誌業、不動産業、医薬品業等の業種別の景品告示が、それぞれあります。
告示や運用基準において、「景品」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自らの商品やサービスの取引に付随(例:キャラメル菓子の箱についている応募券を貼付することが応募の条件とし、商品の購入が前提)して提供する物品、金銭等の経済上の利益とされています。この景品の定義の3要素は、後であてはめに出てきますので、しっかりと覚えておいてください。
そして、くじ等の偶然性、特定行為の優劣など(例:クイズ正解者への賞品提供)によって景品類を提供することを「懸賞」として、商品やサービスの消費者への提供価格(取引価額)に応じて、景品の最高額と総額を決めています。たとえば、5000円未満の商品・サービスについては、取引価額の20倍が景品の最高額、5000円以上の場合は10万円が最高額、景品の総額はいずれも懸賞期間の商品・サービス売上予定総額の2%などとされています。
懸賞によらず、一般消費者に景品類を提供する場合は、「総付景品」といって、商品やサービスの消費者への提供価格(取引価額)に応じて、景品の最高額を決めています。1000円未満の商品・サービスの場合は、200円が最高額、1000円以上の場合は取引価額の20%が最高額とされています。
なお、懸賞とされるものでも、抽選やクイズへの回答によって賞品を提供するが、商品・サービスの購入が必要ないものは、取引に付随しないものとして「オープン懸賞」とされ、2006年から上限額の規制が廃止され、景品規制の対象から外されました。製品名の一部が空欄になっていて、○印に入る言葉を答えれば抽選で1名様に車があたる、などの広告キャンペーンはこのオープン懸賞の例です。
■ コンプガチャが問題とされた点
<コンプガチャとは>
そもそも、コンプガチャとは何でしょう?
まず、「ガチャ」とは、オンラインゲームのプレーヤー(消費者)に対してゲーム中で用いるキャラクターやアイテム(アイテム等)を供給する仕組みで、駄菓子屋の店頭にある「ガチャガチャ」と言われる自動販売機のように、何が出てくるかは偶然に支配されていて、消費者がアイテム等を自由に選択できないようなものです。
そして、このような「ガチャ」の仕組みで入手できる特定の数種類のアイテム等をすべて揃える(コンプリートする)と、オンラインゲーム上で使用できる希少な別のアイテム等(レアアイテム)を新たに入手できる仕組みが、「コンプリートガチャ」または「コンプガチャ」と言われるものです。
つまり、「ガチャ」によってどのアイテム等を入手できるかは偶然に支配されているので、特定の数種類のアイテム等をすべて揃えるためには、「ガチャ」を何度も行わなければなりません(消費者庁 平成24年5月18日 「オンラインゲームの『コンプガチャ』と景品表示法の景品規制について」)。
<コンプガチャに景品規制が及ぶのか>
それでは、コンプガチャの仕組みに景品規制が及ぶのでしょうか。コンプガチャの仕組みを分析して、景品規制が及ぶ景品類にあたるか検討してみましょう。
まず、有料のガチャ自体は、消費者が金銭の支払いと引き換えに、事業者からアイテム等を得ているので、取引の対象そのものです。つまり、事業者が有料のガチャとは別の取引に消費者を誘因するために、その別の取引に付随させて提供しているものではないので、景表法上の景品類にはあたらず、景表法の景品規制は及びません。
次に、「コンプガチャ」によって提供されるレアアイテムは、有料ガチャによって特定の数種類のアイテム等を揃えることを条件に提供されます。つまり、有料のガチャでアイテム等を購入することを条件に提供されるので、「コンプガチャ」で提供されるレアアイテムは、有料のガチャという取引に顧客を誘因するための手段(平たく言えば、レアアイテムが欲しいからこそ、有料のガチャをする)とみることができ、また、有料のガチャという取引に付随して提供されるものにあたります。さらに、このレアアイテムによって、オンラインゲーム上で敵と戦ったり、仮想空間を飾ることができるなど、ゲーム上で使用することができることから、レアアイテムは経済上の利益にあたると消費者庁は評価し、「コンプガチャ」によって提供されるレアアイテムは、景品法上の景品類にあたるとしています。そうすると、コンプガチャに景表法の景品規制が及ぶことになります。
<問題となる景品規制~カード合わせ>
それでは、コンプガチャにどのような景品規制が及ぶのでしょうか。
先に紹介した景表法に関する告示・運用基準のうち、「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年公正取引委員会告示第3号)第5項は、「二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組み合わせを提示させる方法を用いた懸賞による景品類の提供はしてはならない」(いわゆる「カード合わせ」の禁止)としています。
かつて、巨人軍の監督や選手のカードが入っているキャラメル商品が、監督と9人のポジションの選手がそろえば景品がもらえる、ということで大人気となり、子供はカードをそろえたくて商品をいくつも買うが、キャラメルは食べない、というようなケースがあったようです。これがいわゆるカード合わせです。
こういった方法は、100円、200円といった子供向けの安い商品に利用されることが多いのですが、当選確率について消費者に誤解を与えやすい一方で、事業者側としては景品類の総額規制(売上の2%)があるので、仮に商品と同じ価値の景品を提供するにしても、50本に1本の確率でしか当たりをつけられません。商品より高い価値の景品であれば、当選率はより下がります。また、景品規制では上限の規制しかありませんので、当選率は引き下げようと思えばいくらでもコントロールできます。子供が景品欲しさにいくら商品を買ってもカードがそろわない、ということが十分ありうるのです。
このように、カード合わせは、手法自体に欺瞞性が強く、子供向けの商品に用いられることが多いことから、子供の射幸心をあおる度合いが著しく強いと考えられ、カード合わせによる景品類の提供は禁止されています。
なお、点数券や同じ種類のカードを集めて景品を提供することは、禁止されているカード合わせには当たりません。
<コンプガチャはカード合わせにあたるのか>
消費者庁は、コンプガチャは禁止されているカード合わせにあたるとしています。
すなわち、コンプガチャでレアアイテムを入手できるための条件となる特定の数種類のアイテム等の図柄は、それぞれのアイテムを区別するものであり、端末の画面上表示されることから、先に述べた告示第5項にいうカード合わせの「符票」に該当するとしています(平成24年5月18日 「オンラインゲームの『コンプガチャ』と景品表示法の景品規制について」)。
したがって、オンラインゲームの中で有料のガチャを通じて特定の数種類のアイテムを全部そろえることができた消費者に対して別のレアアイテムを提供することは、同告示第5項にいう「二以上の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定お組み合わせを提示させる方法を用いた懸賞による景品類の提供」に該当するとし、禁止されるとしています。
■ 7月1日から施行されたコンプガチャ規制
消費者庁は、「『懸賞による景品類の提供に関する事項の制限』の運用基準」において、コンプガチャが告示第5項で禁止するカード合わせに該当することを明記し、平成24年5月18日に運用基準改正案を公表してパブリックコメントを募集、6月18日にこれを締め切り、6月28日に最終的な運用基準改正案を公表して、7月1日から施行しました。
最終的な改正運用基準は、以下の場合に告示第5項で禁止するカード合わせにあたる、としています。
「携帯電話端末やパソコン端末などを通じてインターネット上で提供されるゲームの中で、ゲームの利用者に対し、ゲーム上で使用することができるアイテム等を、偶然性を利用して提供するアイテム等の種類が決まる方法によって有料で提供する場合(筆者注:いわゆる有料ガチャのこと)であって、特定の二以上の異なる種類のアイテム等を揃えた利用者に対し、例えばゲーム上で敵と戦うキャラクターや、プレーヤーの分身となるキャラクター(いわゆる「アバター」と呼ばれるもの)が仮想空間上で住む部屋を飾るためのアイテムなど、ゲーム上で使用することができるアイテム等その他の経済上の利益を提供するとき。」
消費者庁の運用基準改正案に対してパブリックコメントは333通寄せられましたが、その内容を踏まえ、アイテム等を直接提供する方式でなくても、たとえば、特別のアイテム等が当たるくじを引ける権利を提供するなどの場合にも規制されるよう、通常経済的対価を支払って取得すると認められるものを提供することも経済上の利益に含まれることを明確にすべく、「その他の経済上の利益」という文言が追加されました。
■ 改正運用基準の適用範囲・今後の動向
コンプガチャは、今回の運用基準改正によって明確に禁止された懸賞の提供方法ですが、このような呼び名でなくても、運用基準に記載のあるような仕組みをもつものについては、すべて規制対象となります。
以上のような法規制の動きと並行して、NHN Japan、グリー、サイバーエージェント、ディー・エヌ・エー、ドワンゴ、ミクシィの6社は、ソーシャルプラットフォーム連絡協議会として、有料ガチャで提供するアイテムの一覧、提供期間やそれぞれの提供割合を示すとする「ゲーム内表示等に関するガイドライン」(9月1日より運用)、「リアルマネートレード対策ガイドライン」(5月22日より運用)及び「コンプリートガチャ等に関する事例集」を6月22日に自主的に策定し、公表しました。
このうち、「コンプリートガチャ等に関する事例集」では、典型的なコンプガチャのほか、(1)特定の二以上の異なる種類のアイテム等を揃えた利用者に対して、ゲーム内イベントに参加する等の機会を与え、そのイベントをクリアする等一定の条件を満たした場合にアイテムを提供する方法、(2)揃えるべき特定の二以上の異なる種類のアイテム等をパターンで特定し、当該アイテムを揃えた利用者に対してアイテムを提供する方法(いわゆるビンゴ型)、(3)特定の二以上の異なる種類のアイテム等を揃えた利用者に対し、希少価値のあるパラメーター上昇等のメリットを提供する方法、(4)特定の二以上の異なる種類のアイテム等を揃えた利用者に対し、揃えたアイテム等の合成によって別のアイテム等を提供する方法についても、禁止されるべき懸賞の提供方法にあたる、としています。また、そのほかの留意すべき事例をいくつか掲載して、事業者の慎重な検討を呼びかけています。
消費者庁は、インターネット取引を巡る様々な問題について、関係行政機関、事業者団体、消費者団体等から成る「インターネット消費者取引連絡会」の運営などを通じ、法規制と事業者による自主的な対応が相互に補完し合うような形で取り組まれるよう、積極的な役割を果たしていく、としています。
消費者の保護を図りつつ今後新たな事業の仕組みを検討するにあたっては、法規制だけではなく、業界の自主規制についても注視していく必要があるでしょう。
以上
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